3-2『チチネジキルコミック』
草風の村の一角。
道にトラックが並んで止まっており、武器科の隊員が一台のトラックから弾薬を積み降ろしている。
近くには隊員Cと同僚の姿もあった。
武器A「そこのが普通科の分の補充用弾薬だ。持ってって各員補給してくれ」
武器Aは、雨にぬれぬよう、ビニールシートが掛かった箱の塊を示していう
同僚「了解。後、※ロクロクてき弾を持って行くよう、言われたんですが」 ※“71式66mmてき弾銃” 試製66mmてき弾銃が正式採用された物
武器A「そいつはトラックの奥だ。分けてはあるから、自分で持ち出してくれ。
俺は他に準備がある」
そこまで説明すると、武器Aはトラックの影へと消えた。
同僚「隊員C、先に弾薬を持ってってくれ。私はロクロクを降ろしておく」
隊員C「へーへー」
同僚はトラックへと這い上がり、奥に入っていった。
隊員C「あぁ糞、たりぃな」
隊員Cはぶつくさ言いながら箱をいくつか重ねてかかえると、
トラックと建物の間を通って、その先の十字路に出ようとした。
その時だった。
隊員C「でッ!」
トラックと建物の影を出た所で、隊員Cは同時に出てきた人影とぶつかった。
修道女「ッ……」
ぶつかった人影は、他でもない教会の修道着を纏った修道女だった。
隊員C「……あ?」
村人と違った服装の人間に、隊員Cは不可解な表情を浮かべる。
一方の修道女は、まず真っ先に自身の服を払い、
その後に顔を起こして隊員Cの姿を見止める。
修道女「どこを見ているのですか?いきなり飛び出して、私の進路を妨害するなんて、
一体どれだけ鈍臭い感性をお持ちなのかしら?」
そして笑顔を作って言い放った。
修道女「ああ、失礼。そもそも愚鈍な下々の者に、そんな立派な感性が備わっているはずもありませんでしたね。 でもお勉強になったでしょう?あなたのような愚鈍な人は、今度からは邪魔にならないよう、 おとなしくしているといいですよ?」
そこまで言うと、修道女は何事も無かったかのように、隊員Cの前を通り過ぎようとする。
だが、次の瞬間だった。
修道女「ッ!?」
彼女の足に鈍い衝撃が走り、同時に彼女はバランスを崩した。
修道女「ヒッ!?」
隊員Cが即座に修道女の進行方向に足を放り出し、修道女の足を引っ掛けたのだ。
修道女「ぎゃ!」
そして修道女は、脇に止まっていたトラックのキャビン正面に顔面をぶつけた。
突然巻き起こった事態に、修道女はそのまま顔を抑えてうずくまる。
修道女「痛……あ、あなた!今何をしたのですかッ!この私に一体なんて事を……ッ!」
そして自身の身に振りかかった事態を把握し、修道女は態度を変えて声を上げた。
一方、隊員Cは持っていた弾薬箱を乱暴に置き、修道女に言い放つ。
隊員C「こっちの台詞だよクソッタレ!痴呆みてぇにボゲーっとしながら歩いてぶつかって来たと思えば、
ピギピギ胸糞悪い台詞を吐いて来やがって、一体全体どういう了見だぁ糞女?」
修道女「な……!?」
浴びせかけられた罵声に、修道女は顔をさらなる驚愕に染め、そしてワナワナと震え出した。
修道女「私の行く先を妨害した、足を引っ掛けてきずを負わせた上、
あげくの果てにこの私のそんな無礼な台詞をぶつけるなんて……
どうやら厳しい躾が必要なブ……」
隊員C「クソッタレ牝ブタがいたもんだぜ!ろくに安全確認する事もできねぇ上に、
責任転嫁と八つ当たりと来た!」
修道女「ッ!?」
修道女は自らの台詞を遮断され、そればかりか、
発しようとしていた単語で逆に自身を罵られた。
隊員C「あぁ救いようがねぇ。こりゃ養豚場、いや、精肉場送りにして解体しちまったほうが得策かぁ?」
修道女「な……な……」
連続して降り注いだ屈辱に、修道女はついに激昂した。
修道女「このッ、無礼者がッ!」
そして修道女は杖を振り上げて、隊員Cへ襲いかかろうとした。
同僚「よせ馬鹿ッ!!」
だが杖が振り下ろされる直前、同僚がその場に駆けつけた。
同僚はすかさず二人の間に割って入り、振り下ろされようとする修道女の杖を、
そしてホルスターから抜かれ、今にも修道女に向けられようとする隊員Cの拳銃を受け止めた。
修道女「なッ」
隊員C「チッ」
当然割りいってきた第三者に、修道女は驚きを、隊員Cは鬱陶しさを、それぞれ顔に浮かべる。
同僚は両者の得物をやや強引に降ろさせた後、
両腕を伸ばし、突き飛ばすように両者の距離を開けさせる。
そして先に隊員Cを睨みつけて怒号を飛ばした。
同僚「一体何をやってるんだ!?隊員C説明しろ!」
隊員C「何をやってるってぇ?この女が飛び出してきてぶつかったあげくに、
糞不快にも豚みたいな鳴き声をピギピギ言って来やがったんだよ!
あげく襲い掛かってきたから、しかるべき対応を取ろうとしただけさ」
隊員Cは同僚の怒号など気にも留めず、修道女を指差して言った。
修道女「何を勝手な事を行ってるのかしら!そもそもどちらがブ……!」
衛隊B「あーッ!遅かったぁ……!」
そこへまたしても修道女の台詞を遮り、今度は道の先から大声が聞こえてきた。
見ると呆れ顔の自衛と、頭を抱えた衛隊Bがそこにいた。
修道女「う……」
自衛の容姿に修道女は若干顔を引きつらせる。
自衛「おい、今度一体は何をごたついてやがんだ」
同僚「自衛!それが……」
同僚も事態を全て把握しているわけではなく、自衛にどう説明したらいいのか悩む。
武器A「隊員Cとそっちの女が、そこの角でに衝突して揉め事になったんだよ」
そこへ同僚の代わりに説明する声が聞こえてきた。
声の主は、トラックの運転席から降りてきた武器Aだった。
同僚「武器A三曹!まさかずっとそこに……?」
武器Aは同僚の疑問は無視して説明を続ける。
武器A「そっちの女が最初に何やら喚きたてたようで、その後隊員Cがその女の足を引っ掛け、喧嘩に発展したわけだ」
同僚「あ、足を引っ掛け……隊員C、お前なんて事を!」
隊員C「先に胸糞悪い暴言を吐いてきたのはこの女なんだがよぉ?
俺はいわれもねぇ暴言は吐かれてへらへら笑ってるような、
勃起不全教育は受けてこなかったんでねぇ?」
隊員Cはそう言い放つと中指を突き立てて見せた。
修道女「どこまでも下品な口を……ッ!」
同僚「やめろ、やめろッ!」
同僚は再度、両名の間に割って入る。
自衛「ガキの喧嘩のほうがまだお上品だな」
同僚「というか武器A三曹!見てたんなら、どうして止めに入ってくれなかったんです!?」
同僚は両者を抑えながら、武器Aに振り返って問い詰める。
武器A「なんで俺がお前等の面倒事に関わらなきゃならねぇんだ。
今更お前等54普が何しようと、驚きゃしねぇよ。
それに……」
武器Aは短くなった煙草を地面に捨て、足でもみ消しながら言う。
武器A「煙草吸い出したばっかだったからな」
同僚「……」
つまり武器Aは隊員Cと修道女が争っているというのに、
運転席から高みの見物を決め込んでいたらしい。
自衛「でぇ、結局この茶番劇の原因はどっちにあるんです?」
武器A「ぶつかったのはほぼ同時だったし、双方不注意ってトコだろうよ。
俺はもう行くぞ」
興味無さそうにそれだけ言うと、武器Aはその場から立ち去って行ってしまった。
隊員C「おい衛隊Bよぉ、結局なんなんだこのうるせぇ女は?」
衛隊B「星橋の街の教会の修道士さんですよ。怪我人の治療のために、
応援に来てくれたんです……。
ていうか隊員Cさん、一日一度は揉め事起こさないと死ぬ体質なんですか?」
隊員C「揉め事の方が俺様に擦り寄って来てんだよ。こっちは降りかかる火の粉を払ってるだけさ」
さも当然のように言い放つ隊員C。
同僚「もういい、お前は黙ってろッ!……修道女さん、こちらの者に無礼があった事は
お詫びします。この者には後で十分反省させますので。
しかし、今現在この村は見ての通り大変な状況なんです。あなたも少し自重してください」
修道女「ふん……まぁ、いいでしょう。下々の者の価値の無い戯言に
一々腹を立てるなど、貴族のすることではありませんから」
修道女は多少落ち着いたのか、笑顔を作り直して言う。
衛隊B「いちいち癪に触るなー……」
隊員C「毒舌気取ってりゃ、何でも許されると思ってる勘違い女さ。たまにいる」
修道女は隊員Cの罵倒に少し表情を崩すも、
それを無視して、赤くなった自らの頬に手をかざし、短く詠唱した。
すると一瞬頬が発光粒子に覆われ、赤みが引いた。
同僚「!、今のは」
自衛「あぁ、君路のツレが似たような能力を使ってたな」
自衛と同僚は、治癒魔法が使用される様子を見て、最初の村での事を思い出した。
同僚「怪我を治せる魔法か」
衛隊B「ええ、この能力で、避難区画の負傷者を見てもらいに行く所だったんですけど……あ」
衛隊Bは言いかけた言葉を区切り、自衛の右腕に触れる。
自衛「あぁ?」
衛隊B「自衛さん、腕に怪我を」
自衛の作業服の左腕の部分に血が滲んでおり、衛隊Bが袖をめくってみると、 自衛の左腕に、10cm程の切り傷ができていた。
自衛「ああ、昼の戦いの時にやったようだな」
衛隊B「とにかく手当てを、えっと絆創膏……」
修道女「あら、さっそく出番のようですね。
鞄を探ろうとする衛隊Bの言葉を遮り、修道女が前へと出て来た
修道女「私にかかればその程度の傷、造作も無い事ですわ。せっかくですからその醜い顔も治してあげましょうか?」
修道女は得意げな顔でそんな事を言ってのける。
自衛「おい。こいつぁ、ひょっとしてボットン便所かなんかが人に化けてんじゃねぇのか」
衛隊B「自衛さん!もー……」
衛隊Bは呆れる自衛の代わりに、自衛の左腕を持ち上げる。
修道女「う!?」
そこで自衛の左腕を見た修道女の顔が強張った。
自衛の左腕は、身体と不釣合いなまでに細く、しかし鋭く凶器のようで、
まるでそこだけが別の人物の腕のようだったからだ。
修道女「……失礼。始めますよ」
一瞬動揺した修道女だったが、気を取り直し、自衛の左腕の前で杖を掲げ、詠唱を始める。
自衛「……あ?」
修道女「あ…あら…?」
しかし、しばらく経っても特に変化は起こらず、傷が塞がる様子も一向に無かった。
隊員C「あー?おい、何も変わってねぇぞ?」
修道女「うるさいわよ!送る魔力を強くすれば、こんな傷……」
修道女は詠唱式を少し変えて、再度詠唱する。
しかし時間は経過するも、やはり傷に変化はなかった。
衛隊B「……なんも変わりませんね」
修道女「おかしいわ!たかだかこんな傷が……!」
動揺しつつも、三度目の詠唱を試みる修道女。しかし、傷が治る気配は一向に見られなかった。
自衛「あぁ、いい。これ以上はいい」
痺れを切らした自衛は、腕を引っ込める
自衛「衛隊B、絆創膏はあったか?」
衛隊B「あ、はい」
自衛は衛隊Bから絆創膏を受け取り、適当に貼り付けた。
自衛「俺は行くぞ。指揮所に行く途中でコイツがウロウロしてて何かと思や、とんだ茶番だった」
そしてその場から立ち去ろうとする。
修道女「な、待ちなさい!この私がわざわざ治療してあげると言ってるんですよ!終わるまでは静かに待っていなさ……」
修道女は追いすがろうとするが、自衛は修道女に振り向き、
自衛「ふざけんな、乳ねじ切るぞ」
一言そういった。
修道女「……ひぃ」
その一言に修道女はたじろいだ。
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自衛「ったく、衛隊B。このねーちゃんを避難区画に連れてけ。負傷者の引継ぎが終わったら、お前も集合地点に来い。いいな?」
衛隊B「あ、はい。分かりました」
自衛「同僚、隊員C、お前等はとっとと補給作業を終わらせろ」
指示だけ下すと、自衛はその場から立ち去ってしまった。
修道女「ッ……」
隊員C「あんだけえらそうにしといて、結局役立たずかよ?」
隊員Cは修道女に軽蔑した目を向けながら言う
修道女「ッ!」
同僚「隊員C、わきまえろ!協力者だぞ!?」
隊員C「協力者ぁ?あのなぁ、出くわしていきなり言われも無い悪口を
吐き出してくるようなのは“敵”って言うんだよぉ!」
同僚「お前はッ!クソッ……衛隊B、修道女さんを早く避難区域へ案内してあげてくれ」
衛隊B「あ、はい、分かりました」
衛隊Bは嫌そうな顔を少し浮かべ、修道女の方を向く。
修道女「なんて不愉快、この私のこんな仕打ちを……あなた達、覚えていなさい!
いつか報いを受ける時が来ますからね!」
衛隊B(種をまいたのは自分の癖に、何言ってんのこの人)
修道女「何をしているの!あなた、早く案内してもらえますか?」
衛隊B「あー、はいはい、こっちですよ」
衛隊Bが修道女を連れて立ち去った後に、隊員Cが呟いた。
隊員C「ああゆーのを糞女っていうのさ」
そして隊員Cは、ずっとホルスターに当てていた手をようやく離した。